真の建築家 松村正恒
建築家 松村正恒
今から約30年ほど前に恩師の紹介で松村先生の設計事務所を何度か訪ねさせていただき、かわいがっていただいた。
私がまだまだ、卵の設計事務所勤務時代の時である。おそらく、つたない返事に驚かれていたに違いない。
偉大と聞きながらも、穏やかさの中にある偉大さが解からず、今思えば若いとはいえ大変失礼だったと思う。
自分の勤務する設計事務所とは、規模も空気も風情までもが違う松村事務所は興味をそそられた。自称建築稼と称し、たしか事務所入口には無級建築士と筆で書かれた和紙が吊られていたような記憶がある。他にも何枚か筆書きがあって、意味が解からなかったが御聞きできなかった。
製図台の横には日本酒の一升ビンがあって、製図台の上には薄いトレーシングペーパーが何重にも置かれ、製図台に向かう傍ら私には非常に穏やかな優しい口調で言葉をかけて下さった。ユーモアのある先生の言葉の意味が若くて無知の私には、理解できない話しも多かったと思うと残念でならない。もう一度、丁寧に一語一句御聞きしたいものだ。
多くを語られなかった先生の言葉で今でも、かすかに残る印象に残った話しは『子供たちの幸せ』『子供の頃から目にふれるものや、形、色、耳に入る音、香、風土が美しい環境であること。それは家庭、学校、近隣、街などが作りだす美しい風土』『雇って欲しいと全国から若者が訪ねて来るのが気のどくで』『設計事務所は儲からん』こんなふうなことを言われた。きっと日土小学校にも通じる考えだったのでしょうか。日土の子らは川魚の泳ぐ姿と川面の魚影を追いながら、川に張り出したテラスで、四季を向かいのみかん山に抱かれ、すくすくと育ち、その町に誇りさえ感じたに違いない。
それから私は、建築とは、子供たちや高齢者の弱者を助ける事と、心がけている。子供の頃からの環境はその子の当たり前になる訳ですから、少しでも誰かの役に立ちたいと日頃思っている。こんな偉そうなことを言えるほど、信念には遠いものですが、おごらず、何時のときも初心で穏やかに優しく建築のお手伝いをさせていただきたいと思っています。松村先生の出会いに感謝申し上げます。
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